4人のアーティストが語る「GUCCI 4 ROOMS」の部屋
「グッチ(GUCCI)」による新アートプロジェクト「GUCCI 4 ROOMS」が、グッチ銀座店とドーバー ストリート マーケット ギンザで一般公開されている。それぞれの部屋を制作したのは、国内外で活躍するメディアアーティストの真鍋大度と現代美術家の塩田千春とMr.、アレッサンドロ・ミケーレ「グッチ」クリエイティブ・ディレクターと共に、2016-17年秋冬コレクションで“グッチ ゴースト”を発表したカナダ人グラフィティ・アーティストのトラブル・アンドリューの4人だ。各部屋には、“部屋”作りの素材になった「グッチ」の最新コレクションが置かれ、独自の世界観に溶け込ませている。メディアテクノロジーや現代アート、ストリートグラフィティを用いた一つとして同じ部屋のない「GUCCI 4 ROOMS」を4人へのインタビューでひも解く。
今回の作品は、「グッチ」のコレクションテーマやアイテムに綴られた言葉をヒントに、まずアレッサンドロからコレクションの着想源であるフランス文化やギリシャ神話に関する資料を集め、解析することから考え始めました。資料の中でも印象的だったのは、テーマの「RHIZOMATIC SCORES」に関する文章と図形楽譜。自分の会社名と同じ「ライゾマティクス」だったので、特に印象強かったです(笑)。フランスの哲学では重要な概念とされる「リゾーム」(ライゾマティクスの名詞)は、単純な階層構造ではない複雑な組織について書かれている哲学なのですが、私が大学在学中に興味があったことに近かったので、さらに偶然を感じましたね。「WORDS ROOM」では、アレッサンドロが表現した文学や神話にフォーカスし、フランス語で書かれた「愛は盲目」などの言葉を集め、それを元にアーティストの畳谷哲也にグラフィックを制作してもらいました。8アイテムそれぞれのストーリーと隠しコマンドでスペシャルストーリーを用意しています。これまでの作品に比べると、グラフィック・デザインを有機的に盛り込んでいることは特徴です。人によって体験できる映像が違うので、ぜひ楽しんでほしいです。
私の作品で常にコンセプトとしていることは「不在の中の存在」です。私のキー素材である赤い糸を部屋全体に張り巡らせた「HERBARIUM ROOM」では、ベッドの皺(しわ)を残したままにしていたり、ふと置いたものがそのままになっていたり、そこに誰かがいたような空間を作りました。私にとって赤は、血液の色。今回用いた「グッチ」の“ハーバリウムプリント”は、流動的な植物モチーフがとても印象的で、私の赤い糸に通じるものがありました。壁や床一面に貼られた“ハーバリウムプリント”があったことでとても制作しやすかったです。赤い糸を使う手法は、絵画を学んでいた時に平面ではなく、空間にドローイングしたくて、今のようなインスタレーションになりました。洋服などファッションアイテムを作品に採用することが多いのですが、私にとってファッションは「第二の皮膚」だと思っています。アレッサンドロが創る「グッチ」の世界観は、とても斬新で前衛的でブランドの新しい一面が見えたように思えました。アートとファッションに境界線というものはなく、どちらも人が日常生活の中で感じられるものだと再認識しました。
「GARDEN ROOM」を作る素材となったのは、「庭」というテーマと植物や動物モチーフをあしらった“グッチ ガーデン”のアイテムでした。「グッチ」は伝統的なブランドというイメージがあったのですが、大ぶりでカラフルな刺しゅうやプリントが特徴の“グッチ ガーデン”を見て、その大胆なデザインに衝撃を受けました。その大胆さが“ギリギリ”な感じで、面白さを感じましたね。東京を舞台にした2016-17年秋冬のキャンペーンビデオでは、ネオン街でデコトラを走らせり、パチンコ店や日本家屋を背景にしたり、アレッサンドロは日本をこんな風に捉えているんだなと理解しました。ここ2年くらいの自分の作品は汚したり、壊したり、どちらかというときれいじゃないものを作っていたのですが、アレッサンドロが感じた日本を見て、僕も身近にある日本をそのまま、かっこつけないで、自然の癒しや爽やかさのある「庭」を自分なりに解釈することにしました。「GARDEN ROOM」の女の子の顔やツチノコをアイコン的に大きく置いた大胆さの中にも、今の日本の資本主義に疲れちゃって、時代に希望を持てない、そんな心情を表現しています。階段の上から下から、あらゆる角度から体感できる空間です。
今回の「GUCCI GHOST ROOM」は、まさに僕が描くキャラクター、“グッチ ゴースト”の空間。NYブルックリンに置くアトリエを再現するように、“アットホーム”をコンセプトにしました。“グッチ ゴースト”は、「グッチ」の2016-17年秋冬コレクションで生まれたものではなく、僕の好きな「グッチ」をオマージュし、クリエイションとして表現したパロディー作品です。はじめは、「『グッチ』が気に掛けるわけがない」と批判的な声も多かったですが、アレッサンドロは認めてくれました。彼は何をするにも、恐れを持たない。僕のアイデアを包み込むように聞いてくれるし、話し合いを通して直感で理解してくれます。初めて会った時、仕事に対するこだわりを強く感じました。今回のコラボレーションを通じ、夢は信じればかなうこと、アートやファッション、音楽はお互いが新しいアイデアを作る原動力であるということをあらためて実感しました。今回、6年ぶりに来日しましたが、日本はいつもフレッシュさを感じるスーパーエキサイティングな都市。3人の日本人新進アーティストとこのプロジェクトに取り組むことができて、うれしかったです。何一つ同じ部屋はないのだから、面白い空間です。